広島地方裁判所 昭和53年(ワ)1000号 判決 1980年1月24日
原告
角尾敬二
ほか一名
被告
島貫清五郎
ほか一名
主文
一 被告らは各自
1 原告角尾敬二に対し、金一二二万五、三九〇円および内金一〇九万五、三九〇円に対する昭和五三年五月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告有限会社角菱に対し、金一〇七万五、九五一円および内金九五万五、九五一円に対する昭和五三年五月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの各連帯負担とする。
四 この判決は第一項にかぎり、かりに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告角尾敬二に対し、金一六二万七、七九〇円、および内金一四九万七、七九〇円に対する昭和五三年五月二四日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは各自、原告有限会社角菱に対し、金二六七万五、二七〇円、および内金二四三万五、二七〇円に対する昭和五三年五月二四日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告有限会社角菱(以下原告会社という。)は、その代表者取締役社長である原告角尾敬二(以下原告角尾という。)以下総員七名の従業員で宝石の小売販売を営んでいる零細企業である。
2 原告角尾は次の交通事故(以下本件事故という。)により受傷した。
(一) 日時 昭和五三年五月二四日午前一一時三〇分ごろ。
(二) 場所 広島市瀬野川町上瀬野レストラン「かだん」先国道上。
(三) 加害車 茨一一あ五六五一大型貨物自動車。
(四) 右運転者 被告島貫清五郎(以下被告島貫という。)。
(五) 被害車 八広島た一二九軽四輪乗用自動車。
(六) 右運転者 原告角尾
(七) 態様 信号待ちのため被害車が停止中、これに加害車が追突して被害車を前方に押し出し、同車の前方に停止中の自動車二台に次々と追突させた。
3 原告角尾は右事故により、外傷性頸椎症、腰部捻挫の傷害を受け、昭和五三年五月二四日から同年六月一六日まで二四日間広島市八丁堀所在の岡本病院において入院加療を受け、現在なお通院中である。
4 原告らは本件交通事故により次のような損害を蒙つた。
(一) 原告角尾の損害
(1) 文書料 二、〇〇〇円
(2) 入院中雑費 一万四、四〇〇円(一日六〇〇円で二四日分)
(3) 入院交通費 一、三九〇円
(4) 休業損害 四八万円
原告角尾は、一ケ月六〇万円の役員報酬を得ていたところ、右事故のため二四日間の入院・休業を余儀なくされ四八万円相当の役員報酬を逸失した。
(5) 慰藉料 一〇〇万円(含後遺症慰藉料)
(6) 損害填補
治療費は任意に全額被告らより支払われたので、これを損害として計上しない。
以上合計一四九万七、七九〇円
(7) 弁護士費用 一三万円
結局損害額合計は一六二万七、七九〇円となる。
(二) 原告会社の損害
(1) 商品損害 九〇万九、六〇〇円
本件事故当時、原告角尾は外商のため原告会社の商品である宝石類を所持していたが、衝撃によりこれが毀損し、一三二万八、三〇〇円で仕入れた商品が四一万八、六七〇円でしか売れなくなつたので、その差額が損害となる。
(2) 商品毀損による得べかりし利益の喪失 三九万八、四九〇円
前述のように一三二万八、三〇〇円で仕入れた商品は、本件事故に遭遇しなければ三割の利益を上げられた筈のものである。したがつて右三割相当額が逸失利益となる。
以上合計一三〇万八、一二〇円
(3) その余の逸失利益 一一二万七、一五〇円
イ 原告会社は零細企業であるため、代表者社長である原告角尾自身が外商を行ない、且つ会社の業績は同人自らの働きによるところが大きかつた。
ロ 事故前三ケ月間(昭和五三年二月から四月まで)における原告角尾の売上げは合計九九九万〇、四〇〇円であり、一ケ月平均三三三万〇、一三三円となる。
ハ 原告角尾は、本件事故による入院期間中であつた二四日間は全く仕事にならず、退院後体を慣らしながら仕事を始めたものの同年七月初めころまでは殆んど仕事にならなかつた。同年六月中の原告角尾の売上げは僅かに四六万一、〇〇〇円に過ぎなかつたので、結局事故時から同年六月末までの同人の売上減は三七五万七、一六八円となる。
ニ 原告会社の売上げに対する粗利益率は三割であるから、右売上減による原告会社の損害は一一二万七、一五〇円となる。
ホ なお、原告会社が本件事故によつて受けた損害は原告角尾自身の売上低下のみに限らず、同人が現場にいて適切な指導監督をしたなら更に他の従業員も売上げを伸していたものと考えられるところ、右指揮監督不能による会社の逸失利益は、原告会社が、原告角尾の休業中同人に支払うことを免れた役員報酬と損益相殺するので、これを請求しない。
(4) 弁護士費用 二四万円
以上合計二六七万五、二九〇円
5 被告島貫は加害車を運転していたものであるから、民法七〇九条により原告らに対し、右各損害を賠償する義務があり、被告会社は、被告島貫の使用者であるから、民法七一五条により自己の事業の執行中に同被告が加えた本件各損害を賠償すべき責任があり、また本件加害車の運行供用者でもあるから、受傷者である原告角尾に対し、自動車損害賠償保障法三条により、よつて生じた損害を賠償すべき責任がある。
6 よつて、原告角尾は、被告らに対し、各自金一六二万七、七九〇円と、これから弁護士費用一三万円を差し引いた内金一四九万七、七九〇円に対する本件事故(不法行為)の日である昭和五三年五月二四日から右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求め、原告会社は、被告らに対し、各自金二六七万五、二七〇円と、これから弁護士費用二四万円を差し引いた内金二四三万五、二七〇円に対する前同日から右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすことを求める。
二 請求の原因に対する認否ならびに反論
1 原告主張の請求原因事実中2記載の事実、および5記載の事実(ただし損害額の点は除く)は認めるが、その余はすべて争う。
2 とくに原告会社主張の商品損害については、本件事故時に原告ら主張の商品が被害車内に存在していたか否か不明であるし、存在していたとしても果して主張のような損害が生じたか否か首肯し難いところである。また原告会社のその他の逸失利益についても、主張によれば間接損害であつて相当因果関係がない。すなわち、原告会社の代表者である原告角尾個人も、その休業損害を請求しているのであるから、その損害額が認容されれば、それで十分である。
3 かりに、原告会社に主張のような商品損害が生じたとしても、当該商品を所持保管していた原告会社代表者角尾に、次のような過失があり、右過失が本件商品損害の発生、拡大に影響を与えているのであるから、この点は損害の負担につき斟酌さるべきである。
すなわち、宝石のような高価で散乱し易い商品は、これを運搬する場合、外商用ケースにこれを固定しておさめ、ケース外側をバンドでしめる等して、何らかの衝撃がケースの外部から加つても、宝石が飛散、損傷することがないように防止するのが通常である。しかるに原告角尾は、そのような注意を払わずに、本件追突によつて、簡単に宝石をケース外に散乱させるような方法で運搬していたものである。
第三証拠〔略〕
理由
一 (本件事故の発生ならびに責任の所在)
1 請求原因2記載の事実(すなわち本件事故が原告ら主張の日時場所において、その主張のような態様で発生したこと。)および右事故につき、被告島貫は加害車を運転していたものとして民法七〇九条により、被告会社は、被告島貫の使用者であり、且つ、本件加害車の運行供用者でもあるから、民法七一五条および自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ被害者に対しよつて生じた損害(但し損害額の点は除く)を賠償すべき責任があること、は当事者間に争いがない。
2 そして、原告兼原告会社代表者角尾本人尋問の結果によれば、原告角尾は原告会社の商品を外販するため被害車に乗車中、本件事故に遭遇したものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はないので、本件事故の被害者は、原告角尾個人および原告会社ということができる。
二 (被告らの賠償すべき損害額について)
1 原告角尾個人の損害
(一) いずれも成立に争いのない甲第三、第四号証および原告角尾本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故により外傷性頸椎症・腰部捻挫の傷害を受け、昭和五三年五月二四日から同年六月一六日までの二四日間、広島市八丁堀所在の岡本病院において入院治療を受けたこと、退院後も通院を必要としたが、受診等に時間がとられることもあつて通院はしていないこと、事故後約一年を経過した昭和五四年五月現在、殆んど回復しているが、未だ首の捻挫部分が一ケ所時々痛み、後頭部の左側が寝ると痛みを感じる等の損害を蒙つていること、を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
(二) そこで右受傷により蒙つた同原告主張の損害額について検討するに
(1) 文書料 二〇〇〇円
成立に争いのない甲第九号証によれば、同原告は本件事故に関し、岡本病院に対して右金額を支出していることが認められ、これに反する証拠はない。
(2) 入院中雑費 一万二、〇〇〇円
成立に争いのない乙第四号証によれば、本訴提起前同原告は被告会社に対し、一日五〇〇円の計算で二四日間分として、右金額の請求している事実を認めることができるところ、当裁判所もこれを相当と認めるので、右のとおり認定した。
(3) 入院交通費 一、三九〇円
成立に争いのない甲第五号証によれば、同原告は本件事故により入院するタクシー代金として右金額を支出していることが認められ、これに反する証拠はない。
(4) 休業損害 四八万円
原告角尾本人尋問の結果、および右結果により成立の認められる甲第六号証によれば、同原告は原告会社より一ケ月六〇万円の役員報酬を得ていたところ、本件事故による二四日間の入院期間中、その報酬の支給を受けていないことが認められ、右認定に反する証拠はないので右金額は正当として認定できる。
(5) 慰藉料 六〇万円
前認定にかかる本件事故の態様、受傷の程度、(後遺症の存在を含む)前掲乙第四号証において、同原告が本訴提起前被告会社に対し、慰藉料として四五万円を請求している事実および治療費は全額被告らにおいて支払われていること(この点は同原告の自認しているところである。)、その他弁論の全趣旨を総合すれば、本件において原告角尾が請求できる慰藉料は六〇万円が相当であり一〇〇万円の請求は過大に失する。
(6) 弁護士費用 一三万円
本件事案に鑑み、主張の金額を相当と認める。
(三) 以上合計一二二万五、三九〇円が本件事故により原告角尾の蒙つた損害額であり、本件事故の態様に照らせば右損害の発生につき同原告に過失があつたとは認められないので、被告らは各自同原告に対し、右金額を賠償すべき責任がある。
2 原告会社の損害
(一) 証人菅文昭の証言により成立の認められる甲第八号証および原告兼原告会社代表者角尾本人尋問の結果によれば、原告会社代表者角尾は外商のため助手席にケースに入れた宝石二、〇〇〇点を置いて被害車を運転中、本件事故に遭遇し、その結果第八号証記載の宝石類が毀損したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) そこで、右宝石毀損により原告会社が蒙つた損害額について検討するに
(1) 商品価値の減少による損害九〇万九、六〇〇円
前掲甲第八号証、証人菅文昭の証言、および原告会社代表者角尾本人尋問の結果によれば、原告会社は右宝石の毀損により、一三二万八、三〇〇円で仕入れた商品が結局四一万八、六七〇円でしか処分できなくなつたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠がないので、その差額である頭書金額を右損害と認める。
(2) 商品毀損による得べかりし利益の喪失による損害
原告会社は、各商品(宝石類)はいずれも三割相当の利益が上つていたので、毀損した宝石の仕入値一三二万八、三〇〇円の三割に相当する三九万八、四九〇円が、右毀損商品が売れなくなつたことによる損害であると主張するが、右毀損商品に代わる商品を仕入れこれを販売することにより、同額の利益をあげることができるわけであるから、そのようなことが当時不可能であつたとする特別事情の主張立証がない本件においては、原告会社主張の右損害は本件事故発生と相当因果関係のある損害とは認めることができないのでこれを採用できない。
(3) 以上によると、原告会社の蒙つた商品損害の額は(1)で認定した九〇万九、六〇〇円のみということになるところ、証人小西等の証言によれば、宝石類を外商する者は商品を運搬する場合、施錠のできるケースに入れて保管し、衝撃等によつて簡単に蓋がはずれ中の宝石類がばらばらにならないように注意して携帯するのが通常であることが認められ、右認定に反する証拠はないところ、弁論の全趣旨によれば、原告会社代表者角尾は右のような注意義務を尽さずに、本件毀損宝石類を携帯していたものと認められるので、本件宝石類の毀損につき原告会社側のこの点の過失は、無視できず右損害についての負担割合を決めるうえに斟酌さるべきである。そして右負担割合は、原告側三、被告側七と認定するのが相当である。そうすると被告らの負担すべき商品損害の額は六三万六、七二〇円ということになる。
(三) 次に原告会社はその余の逸失利益として、原告会社代表者角尾が本件事故により負傷し会社の業務ができなくなつたことにより、会社の売上げが減少しそのため一一二万七、一五〇円の得べかりし利益を失つたことになると主張する
そこで右の点につき検討するに、原告会社代表者角尾本人尋問の結果、および右結果により成立の認められる甲第七号証ならびに弁論の全趣旨によれば、原告会社は、代表者社長角尾以外男性四名、女性三名の従業員によつて営業を行つている小企業であり、原告会社代表者角尾個人の働きが、同会社の営業実績のうち、平均約三割を占めていること、そして本件事故三ケ月間(昭和五三年二月から四月まで)における同人の一ケ月平均売上額は三三三万〇、一三三円であることを認めることができ、右認定に反する証拠はないところ、同人が入院した期間二四日間は同人の働きがなかつたのであるから、その間の売上減は本件事故と相当因果関係がある。そして右一ケ月平均売上額に基づき稼働できなかつた二四日の予想売上額を計算すると、二六六万四、一〇六円が本件事故により直接蒙つた原告会社の売上減と推定される。しかして、右売上げに対する利益率は前認定のとおり三割であるから、右売上減によつて原告会社の失つた得べかりし利益は七九万九、二三一円ということになる。しかし前認定のとおり、原告会社代表者の入院期間中、原告会社としては、同代表者に支給すべき役員報酬四八万円の支出を免れたわけであるから、差引原告会社の失つた得べかりし利益は三一万九、二三一円と認めるのが相当である。
そのほか、原告会社は、代表者角尾の退院後も、昭和五三年六月中は殆んど仕事ができなかつたという理由で、その間の売上減についても請求しているが、しかしその間角尾は原告会社の営業に従事しているわけであるから、何故売上げが減少したのか、その点について具体的な主張立証のない本件においては、右売上減と本件事故との間に相当因果関係が存するとは直ちに認められないので、右請求部分を認容することはできない。
(四) 弁護士費用 一二万円
本件事案に鑑みると、原告会社が本訴について負担すべき額は、一二万円を相当と認める。
(五) してみると、被告らが本件事故により原告会社に負担すべき賠償額は、商品損害として六三万六、七二〇円、逸失利益として三一万九、二三一円、弁護士費用として一二万円の合計一〇七万五、九五一円が正当ということになる。
三 (結論)
以上の説明によると、原告の角尾の本訴請求は、被告らに対し各自一二二万五、三九〇円と、このうち弁護士費用一三万円を除いた一〇九万五、三九〇円については、本件事故の日である昭和五三年五月二四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、原告会社の本訴請求は、被告ら各自に対し、金一〇七万五、九五一円の支払と、このうち弁護士費用一二万円を除いた九五万五、九五一円については、前同日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれ認を容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 植杉豊)